フルマラソンに効くトレイルラン
  • 第6回:
  • 東京マラソンで感じた“脚持ちの良さ”
    鏑木 毅さん
トレランでは脚持ちの良さが身につく(写真は2008年のハセツネ)<br />写真/松岡幸一

トレランでは脚持ちの良さが身につく(写真は2008年のハセツネ)
写真/松岡幸一

トレランで“脚持ち”が良くなる

 本格的にトレイルランを始めてから10年以上経ちました。
 10年前の身体と今の身体とでは、相当変化しています。不整地を走ることで腹筋背筋といった体幹部の筋肉は確実に発達します。とりわけ脚が太くたくましくなったというのが一番の変化点ですが、平坦地では考えられないような激しい筋肉の使い方をするからでしょう。下りを多く走るために、筋断裂を何回となく起こし、そのことで、防衛本能として太くたくましくなっていくのだと思います。
 では、この太い脚はロードを走るのにどのような影響を与えるのでしょうか。私の場合は確かに、昔のような軽さを感じなくなってしまいました。スピードが衰えるというのは残念ながらあるようです。しかし、それ以上のメリットを感じます。とにかく“脚持ち”がよくなったという点です。脚持ち、とは聞きなれない言葉だと思いますが、適当な単語が見つからなかったので私が造った造語なのです。「脚に粘りが出てきた」という意味合いで、脚が疲れにくくなり、しかも疲れてからもどんどん脚が動き続けるという感覚です。おわかりいただけるでしょうか。脚持ちがよくなった例を一つあげてみましょう。

15年ぶりのフルマラソンで思わぬ快走

 2007年第1回の東京マラソンに招待していただきました。トレイルランナーの名前を掲げている都合上、ロードはあまり走りたくないと考えていたのですが、東京の街中を走れるとの思いから出場を決めました。フルマラソンは実に15年ぶりです。とはいえ、トレイルに慣れ親しんだ身体にはマラソントレーニングなどできるはずもなく、オフシーズンということもあり、たいした練習もせずに出場することになりました。
 当日はひどい雨となり、走り出してもしばらくは身体が動かない状況です。ロードは専門外との気楽さから、途中エイドで立ち止まったり休んだり、精一杯レースを楽しみながら久々のフルを完走しました。ゴールしてタイムを見てびっくり、2時間40分ほどで走ってしまいました。15年前の自己ベストまでわずか10分。10分は大きな違いと思われるかもしれませんが、自己ベストを出した時には、40kmのペース走やインターバル走や30kmのタイムトライアルなど、フルマラソンに必要とされる練習はひと通り行った上でのタイムです。ロードトレーニング全くなし、途中に休憩も入れて楽しみながら走って10分の差、これには驚きでした。前半抑えたこともあるのでしょうが、後半になればなるほど、脚に力がみなぎってくるのを感じながら走りました。
 さらに興味深かったのは、レース翌日、脚に疲労がほとんどなかったということです。以前はフルを走るとその疲労で1カ月ほどまともな練習ができなかったことを考えると不思議な感じさえしました。
 “脚持ちがよくなった”意味をおわかりいただけたでしょうか。
 とはいえ、あと10分早く走れと言われても、それは不可能という気がします。苦しくはないのですが、これ以上ペースも上げられない。スピードがなくなった感じ、というのが正直なところです。
 私の例からもわかるように、「速いランナーを生み出すというよりは、強いランナーをつくる」それがトレイルランニングの効果だと思います。

※鏑木毅さんのレース哲学がつまった『トレイルランナー鏑木毅』より転載。
 もっと読みたい方はコチラ


鏑木 毅
鏑木 毅(かぶらき・つよし)
1968年生まれ。日本のトレイルランニングシーンの第一人者。「富士登山競走」「北丹沢12時間山岳耐久レース」「日本山岳耐久レース」など、数々のレースで優勝。2009年にはプロトレイルランナーとしての活動をスタート。「ウエスタンステイツ」(アメリカ)2位、「ウルトラトレイル・ド・モンブラン」(フランス、スイス、イタリア)3位(2010年大会は途中打ち切り)と、世界的なビッグレースでも表彰台に上がっている

トレイルメルマガ

トレイルメルマガ