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RUNNET TRAIL コラム

補給も本番さながら、80km超のドカ走り

佐藤 光子 さん
第3回
大阪府チャレンジ登山大会(通称ダイトレ、2008年)女子優勝

佐藤 光子 さん

週1日の休みにトレイル40kmを2往復

 4月の大阪府チャレンジ登山大会(通称ダイトレ)で優勝した佐藤光子さんは、これまで数々のロードレースで活躍してきた。大阪国際女子マラソン(以後、大阪国際)には、1996年以降、連続11回出場。2005年のレースでは自己最高の2時間47分53秒という記録を残している。
 ロード一辺倒だった佐藤さんがトレイルを始めたのは、2006年のダイトレ。このときは、4時間16分で女子の部2位という成績だった。その後、数々の大会に出場し、現在トレイルレースで最大の目標としているのは、10月に行われる日本山岳耐久レース(以降ハセツネ)だ。
 一方、ロードレースでは、1月の大阪国際を、照準大会として位置づけているので、年間を、ロードのための練習期間と、トレイルのための練習期間というように、大きく2つに分けて計画立てられている。1月の大阪国際が終わると、ロードのシーズンは終了。2月はまる1カ月間休養にあて、3月から8月にかけてがトレイルレースの練習期間となる。
 大学の体育の講師として忙しい佐藤さんは、平日はまともにトレーニングの時間がとれない。そこで、休日となる週末に、まとめて長距離を走る「ドカ走り練習」が中心になっている。
「休みは週に1日、日曜日だけです。それを利用して、春から夏にかけて週末には山に入ります。箕面から妙見山までの往復40kmのコース。ここはロードのコースもあるのですが、私の場合はあえて山道のトレイルに入り2往復します。これは精神的にも結構つらいトレーニングです」
 山に入らない週は、大阪と奈良の県境にある生駒山のふもとのロードを10時間かけて走る90km走をやってみたり、真夏に服部緑地公園で走友たち10人ほどで24時間走などを行うこともある。
「特に暑い盛りに行うロード練習は、長い時間走ってもへこたれずに食べられる胃腸や体力を養うことを目的にしています」

2008年のおんたけウルトラトレイル100㎞では11時間43分16秒で3位

2008年のおんたけウルトラトレイル100㎞では11時間43分16秒で3位

ドカ走りを可能にするストレッチングと心拍管理

 昔から、週末の1日に集中的に、超ロングの練習をしてきたわけではない。ロードレースを中心にしていた時代は、ほぼ毎日コツコツと走るのが基本だった。それによりランナーとしての強さのベースをつくってきたことは間違いない。
「たまたま仕事の状況から、必要に迫られ、週1回だけの、超ロング練習になってしまったのですが、そうでなくても、ハセツネなどの長距離のレースに出るようになれば、このような『ドカ走り練習』は、必ず必要になると思います」
日々、コツコツと継続する練習と違って、超ロングの練習を行うコツは、次の練習までに、とにかくうまく疲労を抜くことだという。
「平日は練習ができないけれど、できるだけ疲労をとることを心がけています」
まず、日に何度となく行っているのがストレッチング。毎朝、起床時の5~10分、腰、臀部、ハムストリングスを中心に行う。大学の体育の授業では、学生たちと一緒に、授業の数だけ、ストレッチを行うことになるから、頻度も半端ではない。
「頻繁にストレッチングを行うことは、疲労を抜くために大変役立っています」
 大学の卒論の研究テーマが心拍トレーニングだった。その後も心拍計との付き合いは長く、現在も、レースはもちろん練習中も、心拍数をチェックしている。
「ロードでは、イーブンペースで走ることを重視しますが、刻一刻と、斜度や路面状況が変わっていくトレイルランでは、ペースより、心拍数を一定にすることが重要になります」
佐藤さんの場合、これまでの経験から、心拍数をだいたい160拍/分に保てば、4時間頑張れるという。当然、上りでは心拍数も上がりやすく、下りでは下がってしまいがち。これをなるべく一定に保つため、上りの局面では、あまり心拍数が上がらないようにペースを落としたり、逆に下りの場合は、心拍数が下がり過ぎないように気をつけなければならない。
また、トレイルランの場合は高度計付き心拍計が重要なツールだという。高度が上がれば酸素の供給量を増やすために心拍数も上昇する。逆に下りでは心拍数が下がる。心拍数を落とさずに下りを走れるように脚の回転を速めればもっとタイムが短縮するという。
 今回のダイトレでは作戦どおり、当初は160拍/分をほぼ維持しているが、途中から、心拍数が下がっていることが分かる。
「今回は、脚にケイレンがきてしまって、途中から上げようにも上げられなくなってしまったのです」

トレラン仲間「ダーティーハニー」とホームコースのダイヤモンドトレイルを走る

トレラン仲間「ダーティーハニー」とホームコースのダイヤモンドトレイルを走る

補給の練習もドカ走りで行う

 トレイルレースでは体力や持久力のほかに食料や水分の補給も大切な要素になる。
「スピードを妨げることなく、安全に補給するには、上りで歩くときがベストなタイミングです。下りのスピードが出るときには集中しないと転倒などの危険がありますから」
食料の補給以外は必ず両手を空けておき、レース中の不測の事態に対応できるようにしておくことが大切。そのためにも、上り坂に来たとき、その道を見て、走れるのか、それとも歩かなければならないのかを瞬時に見極める力が大切だという。
トレーニングでは、こういった練習もしておかなければ、本番で急にうまくできるものではない。補給する食料や飲み物については、「おいしいと感じるものを利用すべき。飲みたい、食べたいという気持ちがおきないものは、積極的に摂取できませんから」という。
今回のダイトレのでは、グリコーゲンリキッドを、フラスクに3袋入れ、水で薄めて持参した。だいたい4時間くらいで走れるレースの補給の目安だ。
「5~6時間以上走る場合は、ドライフルーツや甘納豆など、噛んで食べるものも必要だと思います。食べたという満足感を得ることも重要だと思うんです」
これらを、本番さながらにとりながら走り続ける。そんなトレーニングをやっておくだけで、随分気持ちに余裕がもてるはずだ。

※『1冊まるごとトレイルランvol.2』(2008年8月21日)掲載のものをそのまま転載しています

ママさんランナーとしての活躍、市民ランナーへの心拍トレーニング指導の実績などが認められ、2009年にランナーズ賞を受賞

ママさんランナーとしての活躍、市民ランナーへの心拍トレーニング指導の実績などが認められ、2009年にランナーズ賞を受賞

佐藤 光子 さん

佐藤 光子(さとう・みつこ)


1962年生まれ。大阪国際女子マラソン10年連続出場、フルマラソン2時間47分53秒の記録を持つママさんランナー。『月刊ランナーズ』ではトレイルランの他、心拍トレーニングやコントロールランの指導でもお馴染み。日本山岳耐久レースは2007年から3位、6位、3位と常に上位をキープ。2009年には第22回ランナーズ賞を受賞した。
文/高原昌彦
写真/松岡幸一、本誌編集部
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