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免疫力は走ると上がる? それとも下がる?(PART3)バリア機能UP!「食事」と「補食」で腸内環境と腸のコンディションを整える!


Question
免疫力を高めるには、食生活でどんなことに気をつければいいですか?

Answer
規則正しい生活習慣やバランスの良い栄養摂取が免疫機能を正常に保ち、腸内環境を整えることでバリア機能を高めることができます。


回答者:深野祐子(管理栄養士・ランニングコーチ)


免疫機能の60~70%が「腸」にアリ。腸内環境は免疫力に直結する!

――ランナーの免疫機能を正常に保つポイントとして、前回、食事内容を中心にアドバイスいただきました。最後に腸内環境や腸のコンディションを整えることがとても大切、と「腸」の大切さに触れられていましたね。免疫力と言えば「風邪を引く、引かない」とか「疲れる、疲れない」とか……腸の調子とのイメージと直結していなかったので、意外でした!

深野先生(以下F):なんと腸は、身体の免疫機能の60~70%を占めているんですよ。目や鼻や口や喉などの目に見えやすい部分の粘膜も異物に対して第一のバリアになっていますが、胃や腸などの消化管の粘膜にも、しっかりバリアのシステムが働いているんです。

とくに腸管の粘膜は食べ物の消化・吸収を行っていると同時に、常に多くの細菌やウイルスなどにさらされている状態です。“食品などの安全なもの”と“ウイルスや細菌などの異物”とを見分けて、必要なものは体に取り込み、不要なものは体から排除するように、さまざまな種類の「免疫細胞」が互いに連携・協力しあって体を守っているんです!

――腸のあのひだひだの粘膜は、ただ食べ物を消化・吸収しているだけじゃなかったんですね……!

F:腸にはさまざまな細菌(腸内細菌)が生息しており、その数は1000種類、約100兆個とも言われ、腸内細菌は「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の大きく3つに分類されます。

「善玉菌」はビタミンを産生する、悪玉菌の侵入や増殖を防ぐ、腸のぜん動運動を促すなど体にとって有用な働きをする菌。「悪玉菌」は腸内で有毒物質を作りだす体にとっては悪い菌。日和見菌は優勢なほうに味方をするどちらにでもなることができる菌で、理想的な割合は『善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7』と言われます。実はこの腸内細菌が免疫細胞の活性化に関与していることがわかっていて、腸内環境をよい状態に保つことが重要なんです。腸内環境は食事や運動によっても変化するんですよ!

だからこそ、皆さんに耳馴染みのある「腸内環境を整える」というフレーズは、便秘や下痢の解消のことだけを指しているわけではなく、免疫機能を正しく保つことに直結しているんですね。もちろん、腸内環境を整えることは食べたものの消化・吸収の効率が高まることにもつながっています!

――なるほど…! 腸の役割のイメージが変わりました! 免疫機能の60%~70%を占める腸を意識しない手はないですね。腸内環境を整えるために必要なことはなんですか?

F:腸内環境を整えるのに重要なのは、“プロバイオティクス”と呼ばれる乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌など腸にとってよい効果をもたらす微生物(発酵食品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌など)を摂取すること。そして“プレバイオティクス”と呼ばれる腸の善玉菌を活性化する食物繊維、オリゴ糖などですね。

トレーニングやレース前後の食事、素早く消化吸収を行いたい場合、胃腸の調子がよくないとき、また腹部の膨満感や下痢を起こしやすいといった体質の方は食物繊維の多い食事を控えたほうがよいこともあります。
ただそういった状況や体質でなければ『腸内環境を整える』という意味で、普段の食事では発酵食品や食物繊維を日頃の食生活で意識的に摂取していきましょう。

★プロバイオティクス
・ヨーグルト、チーズ、みそ、キムチ、ぬか漬け、乳酸飲料など

★プレバイオティクス
・水溶性食物繊維
……大麦、昆布、わかめ、ひじき、もずく、りんご、みかん、ごぼう、こんにゃくなど

・不溶性食物繊維
……胚芽米、発芽玄米、さつまいも、ごぼう、ナッツ類、葉物野菜、きのこ類など

・オリゴ糖
……牛乳、大豆、たまねぎ、ねぎ、ごぼう、アスパラ、みそ、ハチミツ、バナナなど


ハードなランニングは腸のバリア機能を低下させてしまう⁈

F:“腸内環境”を整えることも大切ですが、特にハードな…また長時間トレーニングを行っているランナーが気を付けたいのが、『腸のコンディションを整える』こと、です。
ハードな運動を行うことによって、体には過剰な活性酸素が生じて酸化ストレスがかかります。また、トレーニング中は筋肉に優先的に血液が送られますが、その間は腸も含めて内臓への血液量が少なくなってしまうんですね。

さらに特に暑い季節のトレーニングでは、深部体温がどうしても上昇しやすくなります。
実はこのハードなトレーニングによる酸化ストレスや内臓への血液量の減少、深部体温の上昇などが原因となって、普段は“隙間なく”きれいに並んでバリア機能を果たしている腸の粘膜細胞にダメージを与え、細胞と細胞の間にすきまを作りバリア機能を低下させてしまうことがあるのです。

――我々ランナーは腸のバリア機能が低下しやすい状況にあるということですか⁈

F:また、消化管の腸の粘膜細胞や免疫細胞の主なエネルギー源でもあるアミノ酸のひとつ、「グルタミン」は腸管粘膜のバリア機能を維持したり、免疫細胞を活性化するためにも重要、と以前お話ししました。
ところがこの「グルタミン」、体内でも合成できる非必須アミノ酸なのですが、激しい運動などで身体にストレスがかかると大量に消耗してしまうのです。

――ドキッ。つまり、我々ランナーは消耗しやすい、と…?

F:そうですね。ハードな運動や長時間の運動をすることで「グルタミン」はたくさん消費されてしまいますし、空腹時や食事からのたんぱく質不足などでグルタミンが不足すると筋肉のタンパク質を分解することでグルタミンを得ている状況になり、免疫機能の低下だけでなく、運動中であればパフォーマンスの低下、また筋肉量の減少にもつながってしまうんですね…

より強度が高く、また長時間行うような場合、トレーニングそのものが腸の粘膜細胞にダメージを与えてバリア機能を低下させやすく、また腸の粘膜細胞や免疫細胞のエネルギー源でもある「グルタミン」を大量に消費しやすい状態にある。
だからこそ、ランナーはこういったダメージに負けてしまわないよう、『腸のコンディションを整える』工夫が大切なんですよ!

――腸のコンディションを整えるためにはどうしたらいいですか??

F:先ほどお話ししたトレーニングによる腸の粘膜細胞のダメージによるバリア機能の低下を改善するのに役立つのがアミノ酸であるシステインが2つくっついた“シスチン”。
“シスチン”は体で作られる抗酸化物質の原料となり、体の抗酸化機能を高めるとされています。
そして、アミノ酸である“グルタミン”は腸の粘膜細胞や免疫細胞のエネルギー源として、また腸粘膜細胞のバリア機能の維持や修復にも重要です。

基本的には毎食の食事で肉や魚、卵や乳製品、大豆製品等からしっかり必要量のたんぱく質を摂取することが大切ですが、長時間や強度の高い運動を行う際には、前後の食事でさらに意識的にたんぱく質を摂取したり、サプリメントを含む補食で積極的に摂りたいところです。

――なるほど、サプリも活用できますね! どのようなタイミングで摂取すると良いですか?

F:長時間、ハードなトレーニングを予定していたら、3~4時間前に食事を。そして1~2時間前に消化の良い炭水化物やたんぱく質の補食を。そして30分前に、エネルギージェルなどの糖質とシスチン・グルタミンの含まれたサプリメントを摂取するのがおすすめです。

さらに、運動の直後から30分後を目安にロイシンが高配合された必須アミノ酸を摂取し、体の回復を促しましょう。さらにシスチン・グルタミンの含まれたサプリを摂取することでトレーニングによる腸のバリア機能の低下を防ぐことが期待されます。もちろん、免疫力低下を避けるために十分なたんぱく質、ビタミンA、C,EやDなど、腸内環境を整えるような栄養の含まれた食事を摂ることが前提として大切ですね。

――ハードな運動を日常的にするランナーだからこそ、体力を過信せずに免疫機能を保つ工夫を意識的にすることが必要なんですね。食事内容、そしてサプリメントで工夫して、うまく補給していこうと思います!

F:免疫力は低下しやすいのだ、と意識することがまず大切ですね。しっかり栄養補給して頑張ってください!


PART1はこちら
PART2はこちら


《参考文献・サイト》
▶アミノ酸スポーツ科学ラボ
・Amino Acids. 2021 May 15. doi: 10.1007/s00726-021-03001-y.
 Cystine reduces tight junction permeability and intestinal inflammation induced by oxidative stress in Caco‑2 cells
・『シスチン・グルタミンミックス』は運動するときの疲れを防いでくれる!
https://www.ajinomoto.co.jp/kfb/sportsamino/knw02_glutamine-mix.html
・運動すると疲れるのはカラダ全体にダメージが起こり、お腹にもダメージを受けるから?
 理想的なパフォーマンスを発揮のために知っておくべきこと!
https://www.ajinomoto.co.jp/kfb/sportsamino/thm02_stomach-damage.html

▶トコトンやさしいアミノ酸の本 日刊工業新聞社
▶腸内フローラと健康 川崎医療福祉学会誌 Vol.30 No.1 2020 15-35
▶腸管免疫と腸内細菌の密接な関わり合い 日本内科学会雑誌104巻1号 81-85
▶アスリートの腸内環境とコンディショニング(NSCA JAPAN Vol27 No7)




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