トレーニングと脂質活用で30kmの壁を克服する!

フルマラソンに挑戦したことのある方であれば、30㎞を過ぎてから急に足が重くなりピッチが刻めなくなったり、身体全体がエネルギー切れを起こして動かなくなったりという「30㎞の壁」を経験したことがあるのではないでしょうか? 「30㎞の壁」はどのレベルのランナーにも起こり得るものですが、これを克服できるかどうかでフィニッシュタイムは大きく変わってきます。
「30kmの壁」を克服する方法を「トレーニング編」「脂質活用編」に分けて解説します。

トレーニング編

トレーニングの方法を見直し、レースでの走り方を工夫すればそのリスクを減らすことが可能です。市民ランナーからトップアスリートまで幅広く指導している川越学コーチに「30㎞の壁」の対策について聞いてみました。

レースペースに近い練習で
30㎞の壁は越えられる!

TRAINING
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速いペースでの練習を取り入れよう

速いペースでの
練習を取り入れよう

「30㎞の壁」が現れる一番の原因は能力以上のペースで走ってしまうことにあります。目標のフィニッシュタイムから1㎞ごとのペースを逆算して、その通りに走っていても、それだけの力がないとエネルギーが最後まで持たなくなり、また筋肉も早く疲労してしまうため、後半に足が鈍ってしまうのです。これが「30㎞の壁」です。

そのため練習でも、レース本番に近いペースで走り、その力を備えることが必要になります。マラソントレーニングで「ゆっくり長く」走る練習をする方は多いと思いますが、それに加え、私は「LT走」を入れることをお勧めしています。「LT」とはLactate Thresholdの略で、日本語に訳すと「乳酸性作業閾値」となります。少し難しい言葉ですが、内容はシンプルです。ペースが遅い状態で走っていると血液中の乳酸値は変化しませんが、ある一定のペースを超えると血中の乳酸値が急激に高まってくる範囲があります。その値がLT値と呼ばれます。乳酸は筋肉のスムーズな動きを阻害してペースダウンにつながりますが、LT値に近いペースで繰り返し走っていると、乳酸を処理する力が高まり、徐々に速いペースでも楽に走れるようになるのです。

こうした練習を取り入れることが「30㎞の壁」の解消につながります。LT走のペースはランナーのレベルにより変わりますが、「少し速いけれども、頑張れば走れる」といったところを目安に練習してみましょう。最大心拍数の8割から9割程度、30分程度頑張れるペースでいいと思います。この練習は脚筋力の強化にもつながり、後半に足が動かなくなると言った事態の改善にもつながります。

私がお勧めしているのは週に2回、長い距離を走る日と、LT走を行う日の2回を作り、残りの日は疲労を回復させ、より強い身体にする「超回復」のジョギングを行う練習パターンです。このジョギングはあくまで回復目的ですのでペースも距離もこだわる必要はありません。サブスリー(3時間を切る)を目指すにはもう1日、強度の高いスピードトレーニングの日を入れる必要がありますが、サブフォー(4時間を切る)まではこのサイクルで達成できると思います。

「LT走」はマラソン練習の初期には余裕を持ったペースで始めて、徐々に上げていき、後半はレースペースで行うといいでしょう。レベルにもよりますが、仮にサブフォーを狙うのであれば、フルマラソンを走る1カ月前までに目標タイムのレースペースでハーフマラソンを走れていれば十分だと思います。ハーフや10㎞のレースに出て、実戦でその感覚を養うことも有効です。

「少し速いけれども、頑張れば走れる」くらいの強度での練習(LT走)を取り入れよう

TRAINING
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ベースとなるスタミナをしっかり養おう!

ベースとなる
スタミナをしっかり養おう!

レースペースに慣れる練習が重要と申し上げましたが、「ゆっくり長く走る練習」がしっかりとできることは「30㎞の壁」をクリアするうえでの大前提です。フルマラソンで4時間30分切りを狙うのであれば、レースの1カ月前までに20㎞から25㎞までは走れるようになっていてほしいですし、サブフォー狙いであれば30㎞走ができるようになっていることが理想です。最初は10kmや15kmからで構いません。少しずつ距離を伸ばしていくこと、そして週に1回は確実に取り組むことで、成長を実感することができます。これらがマラソンを走るうえでの土台のスタミナになるのです。

またこの時にアップダウンのあるところを走れば、脚筋力の強化にも効果的です。実際のフルマラソンでも常に平坦なコースとは限りませんので、日常的に上り坂や下り坂を走る習慣をつけていくといいでしょう。

サブフォー狙いであれば、レースの1カ月前までに30kmイベントに参加するのもよい

TRAINING
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レースではゆっくり目のペースでスタートしよう!

レースではゆっくり目の
ペースでスタートしよう!

レース本番で「30㎞の壁」をクリアするために何より大切なのは余裕のあるペースで入ることだと私は考えています。サブフォーであれば1㎞5分40秒ペースを維持していく必要がありますが、そこから10秒前後落として、最初の5㎞から10kmはウォーミングアップのつもりで走ってみてください。

これには理由があります。フルマラソンを走るうえでのエネルギーは体内の糖を使うものと、脂肪を使うものの2種類があります。ペースが速いと、先に体内の糖がエネルギーとして使われてしまいます。体内に蓄積している糖の量は限られていますので、これを大切に使うことが必要です。
そのためレース前半はもう一つのエネルギー源である脂質を使うのが賢いやり方です。脂質はゆっくりしたペースの時に活用されます。また糖を使うと乳酸が発生しますが、脂質ではそれがありません。レース序盤にこの脂質活用を進め、糖をレース後半に温存すれば、「30㎞の壁」を越えていくことができるのです。

とはいえ、最初にスローペースで入るのは勇気がいりますし、実際のレースでは気分の高揚もあって、ハイペースで入ってしまいがち。そこをグッとこらえて、抑えめに入ることが「30㎞の壁」の攻略のカギです。いきなり本番のレースでやろうとしても難しいと思いますので、日頃の練習からゆっくりペースから徐々に上げていく習慣をつけるといいでしょう。

(例)ネガティブスプリットのペース配分

5km10km15km20km25km30km35km40km42.195km
29:1029:1028:2028:2028:0928:0928:0928:0912:22
29:1058:201:26:401:55:002:23:102:51:193:19:293:47:383:59:59
  • :ラップタイム
  • :通過タイム

TRAINING
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30㎞の壁を越えるために注意してほしいこと

30㎞の壁を越えるために
注意してほしいこと

フルマラソンでタイムを狙う皆さんは、体重が軽い方がいいとお考えかも知れませんし、実際、そうであるケースが多いのですが、「30㎞の壁」に悩んでいる方は一回、体重を落とし過ぎていないか、確認してみることをお勧めします。多くのランナーを指導していて、脂肪が少なすぎて、後半にペースダウンしてしまう例は時々、見られます。

私の経験からも日頃から栄養面へも目を配り、しっかり食べられる選手がマラソンでも結果を残していることは間違いありません。食事や食材に気を使うことも、「30㎞の壁」をクリアするうえで大切なポイントなのです。

フルマラソン前に体重を気にする人が多いが、落とし過ぎないように注意!

まとめ

監修

川越 学さん

元実業団監督(資生堂、エディオン)で、2006年実業団女子駅伝優勝、07年世界陸上6位(嶋原清子)などの指導実績あり。現在は市民ランナーのランニング指導も行っている。主な著書は、「完走チャレンジ!マラソンの教科書」、「誰でも4時間を切れる!効率的マラソンメソッド」など。

脂質活用編

「30kmの壁」克服のために、トレーニング以外にもできることがあります。それは脂質エネルギーを上手に使うこと。フルマラソン後半のエネルギー切れは30km以降のペースダウンにつながります。それを防ぐためには、脂肪をエネルギーとして使いやすい体質になることが重要です。日本抗加齢医学会専門医で虎ノ門中村クリニック院長の中村康宏先生にお話をうかがいました。

脂肪を燃焼しやすい体質になることが30kmの壁克服の近道

USE OF LIPIDS
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脂肪燃焼回路の燃焼スイッチをONにする

脂肪燃焼回路の
燃焼スイッチをONにする

42.195kmという長丁場のフルマラソンでは、後半にエネルギー切れを起こし、30km以降のペースがガクンと落ちてしまうことがあります。エネルギーは糖と脂肪から作られますが、体内に蓄えられる糖質の量には限りがありますので、脂肪をうまくエネルギーとして使うことが30kmの壁克服の鍵ともいえるでしょう。

今、脂肪燃焼や脂質のエネルギー活用で注目されているのがMCTです。MCTの主成分である中鎖脂肪酸はココナッツやヤシの実、母乳などに含まれている成分で、米国では脂肪肝治療の補助食品にも使用されています。最近は国内にも広がり、中鎖脂肪酸100%のオイル「MCTオイル」をスーパーなどで見たことがある方もいるでしょう。

人間の身体には2つの燃焼回路があり、通常メインで使われているのは、糖質がブドウ糖に分解され、エネルギーになる「糖燃焼回路」。もう一つは脂質からエネルギーを作り出す「脂肪燃焼回路」です。MCT摂取の継続により、この両方の回路が働くようになります。つまり、糖と脂肪を上手に使える体質改善ができるということ。自動車に例えると、ハイブリッドカーになるイメージです。

普通の身体は、運動するとき筋肉中に蓄えられたグリコーゲン(糖分)を消化してから脂肪燃焼が始まるのですが、MCT摂取の継続によって、ケトン体(※)という物質が出やすい体質に変わっていきます。ケトン体ができると脂肪燃焼回路の燃焼スイッチがONになりやすい状態が続くので、エネルギー不足になりにくくなるのです。そのような体質に変わってくると、疲労を感じにくかったり、パフォーマンスがより向上して持続しやすいというメリットが期待できます。

※ケトン体…「脂肪燃焼回路」のエネルギー源で、体内の脂肪を材料に肝臓で作られます。ケトン体が増えてくると、エネルギーを作るミトコンドリアが直接活性されて、脂肪燃焼できる身体に変わっていきます。

42.195kmを走り切るには、脂質の活用が不可欠

USE OF LIPIDS
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MCTオイルの継続摂取が体質改善につながる

MCTオイルの継続摂取が
体質改善につながる

体質改善という意味では、MCTオイルは毎日摂ったほうがよいでしょう。1日にだいたい6~10gを摂ることで脂肪燃焼体質が維持できることも分かってきています。走らない日も含め、少量でも毎日続けたほうがよいでしょう。

お勧めの摂取タイミングは、1日の中で最もケトン体が出やすいと考えられる朝(朝食時)です。オイル自体は無味無臭でさらっとしていますので、みそ汁やコーヒーに入れる、ドレッシングに混ぜて摂ることができます。ただし、MCTオイルは発煙点が低く、炒め物や揚げ物など、油を直接加熱する調理には使えません(できあがった炒め物にかけるのはOK)

また、MCTオイルは一般的な油と比べて吸収が早く、摂取してから2~4時間後には血中に吸収されることが分かっています。そのため運動する2、3時間前に摂っていただければ、ちょうど運動するときにエネルギー源として血中に回ってくるでしょう。

消化吸収がよく、体内での分解が速い中鎖脂肪酸100%の「MCTオイル」

まとめ

監修

中村 康宏さん

内科医・消化器内科医として研鑽を積んだ後、米国医師免許試験を突破し、アメリカに留学。帰国後、日本初アメリカ抗加齢学会施設認定の「虎ノ門中村クリニック」を開業、院長を務める。