タイムや順位より、自分の
ベストパフォーマンスが出せるかどうか。
それを考えてレースに臨んでいます
高校サッカー強豪校出身の平賀太智さんは、大学でも体育会サッカー部に所属し、練習の一環としてトレイルランニングを行っていた。2年生のときにドイツへ短期留学するほどサッカーに打ち込んではいたが、そのドイツで、サッカー選手としての自分に「中途半端さを感じてしまった」と言う。このままではしょうがない、もっと熱く夢中になれるものを。そんなとき、サッカーのトレーニングの延長として申し込んだトレイルレースが間近に迫っていた。
レースは、2016年11月開催の「Fun Trails 50K」。プロトレイルランナーでありレースプロデューサーでもある奥宮俊祐さん主催の人気大会だ。走歴2年の平賀さんにとって50kmは未知の距離だったが、ここで「5位以内に入れたらサッカーをやめる、トレイルランニングを本格的にやる」と決めた。そして4位入賞。自分の中に「これだ」という確信が生まれたとともに、まわりにもこの快挙によって一躍注目されるようになる。以来2年半、数々の大会で安定した好成績を残し、今年2019年にはJSA(スカイランニング協会)強化指定選手にもなった。
このような背景と勢いのある若い選手だけに、さぞ強い言葉で今後の目標やレースへの抱負を語るかと思いきや、意外にも繰り返し口にするのは「楽しい」─ただシンプルにこのフレーズだった。
「練習でもレースでも、山を走るのがとにかく楽しいです。土の感触、木々の匂い、岩の間を駆けたり、時には手をついてパワーウォークしたり。急な上り下りも、気持ちのいい稜線も、みんな同じように大好きです。標高を上げると徐々に空気が冷たくなってくることを肌で感じてワクワクしますし、技術のいる下りを飛ばすのもアドレナリンが出ます!」
たしかに、走っているときの表情は、ファインダーを覗くカメラマンに「笑ってばかりだなぁ」と言わせるほど。山にいるこの時間が嬉しくて楽しくてたまらない、そんな走りをするのが平賀さんなのだ。
実のところ、トレイルランニングを本格的に始めてからは、むしろレースでも順位やタイムは気にならず、そのときの自分のベストパフォーマンスを出せたか?が、自身の指標だという。「順位やタイムって、他に誰が出ているかとか、コース条件がどうだとかに関係することですよねぇ」と気負いのない口調でつぶやき、続けて言った。
「走るというより、山に対しては“遊ぶ”…そう、“遊ばせてもらっている”というほうがピンときます。トレイルランナーとかスカイランナーというより、自称するなら『マウンテン・プレイヤー』だな、と思っているんです」
トレイルランだけでなく、登山も、そして仲間と一緒に食べる山飯(やまめし)なども大いに楽しみ、さらにはオンもオフも山に関わっていたいと考えるようになった平賀さん。大会参加や多くのトレラン仲間との出会いに感謝し、「人のために役立つ仕事がしたい」という高校時代からの希望もより具体的なものに変わった。今春3月に大学を卒業した現在、山岳遭難救助の職に就くため試験を控えて準備している。一番好きな言葉「夢中」という字を部屋に掲げながら。
「全力だから楽しい。それを自分は信じています」