本サイトではより多くの方に快適に利用して頂ける様に、アクセシビリティ面を充分に考慮したコンテンツの提供を心がけております。その一環として、閲覧対象コンテンツのすべてにスタイルシートを使用して制作しております。現在閲覧に使用されているブラウザには、当方制作のスタイルシートが適用されておりませんので表示結果が異なりますが、情報そのものをご利用するにあたっては問題はございません。

RUNNET TRAIL コース

「長野県 槍ヶ岳・穂高連峰コース」 標高差1600m超、距離32km。3000m級ピークを結ぶ難関コース

松本大
「長野県 槍ヶ岳・穂高連峰コース」
標高差1600m超、距離32km。3000m級ピークを結ぶ難関コース

今月のナビゲーター:松本大/山岳ランナー・スカイランナー

「長野県 槍ヶ岳・穂高連峰コース」

 毎年夏になると、暑さが苦手な私は、旅行を兼ねて、標高の高い山でトレーニングを行っている。日本には富士山を筆頭に、3000m級のピークが21座ある。今回紹介するのは、2004年の夏、私が大学生のときに走ったルートで、一気に3000m峰8座(槍ヶ岳、大喰岳、中岳、南岳、北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳、前穂高岳)を制覇する上級者向きのコースだ。

 このコースは登山界では一般的な縦走ルートで「日本のマッターホルン(槍ヶ岳)」と「北アルプスの盟主(穂高岳)」を結ぶ日本アルプスのハイライトルートである。出発地点に選んだのは、夏は大勢の観光客で賑わう上高地。マイカー規制が行われている上高地までは、途中からバスに乗っていくことになる(ちなみに東京、大阪、名古屋の主要都市からは直通バスが出ている。電車ならJR松本駅やJR高山駅で、マイカー利用なら沢渡か平湯の駐車場に車を置いて、それぞれバスに乗り換える方法になる)。私の場合、沢渡から上高地に入っていった。

 前日に上高地に入り、キャンプ場でテントを張って早めに就寝した。夏山の天候は急変しやすい。午後には崩れることが多いので、行動するのは比較的天候の安定している午前中まで。行動時間を確保するなら、深夜に出発するのが望ましい。
 上高地から横尾までのトレイルは緩やかでよく整備されており、ヘッドライトの明かりだけでも走れる。横尾を過ぎ、槍沢に入ると次第に斜度を増し、槍沢ロッジを過ぎたあたりで、足もとは土から岩へと変化する。槍沢を登り詰めて行くと、次第に空が明るくなってきて、眼前の槍ヶ岳の穂先から峰が赤く染まり始めた。息をのむ美しさに眠気が吹っ飛んだのを覚えている。

 槍の穂先に立てば、360度の展望を楽しむことができる。眼下には東西南北へ尾根が続いており、北アルプスの中心に立っている気分になる。急峻な北鎌尾根を見下ろせば、山岳ランナーがいくら山を走っても、技術面で山屋に勝つことはできないことを痛感できる。前人未踏のルートを開拓してきたクライマーがつくった道を、僕ら山岳ランナーは走らせてもらっている。そんなことを実感させられた。

 槍ヶ岳から南岳までは気持ちよく走れるルートだ。ただ、南岳以南の大キレット(南岳と北穂高岳の間にあるV字に切れ込んだ岩稜帯で、国内の一般登山ルートの中では最高難度の場所)は足を踏み外せば、一発であの世に逝ける。大キレットより急な岩盤を見せて屹立しているのは前穂高岳だ。眼下には涸沢カール(穂高連峰の東側に位置し、氷河によって削り取られた谷に夏でも残雪が残っている)の展望がよい。
振り返れば槍の穂先が天空を突き刺していた。涸沢岳を過ぎ、「北アルプスの盟主」である奥穂高岳へ。鋭く厳しい槍ヶ岳と比べれば、優しささえも感じてしまう、表情が異なるピークである。

 吊り尾根を通り、前穂高岳の登りへ。疲労がたまっているが一踏ん張りして登る。前穂高岳からは、北穂高岳とは逆向きの涸沢カールを一望できる。一気に岳沢を下れば上高地に到着。大勢の一般観光客の姿に、無事、下界に戻ってこられた安心感を覚えた。
 私の場合、アフター山岳ランは温泉と決めている。上高地周辺には多くの名湯が湧出しているが、私は沢渡の近くにある白骨温泉へ行った。硫黄の香りがする乳白色の柔らかい湯に浸かりながら、一日の楽しい山行を振り返った。

 今回紹介したルートはトレイルランというより、軽快登山と考えるべきで、上級者向きのチャレンジルートである。私でも10時間ほどの時間を要しており、体力的に自信のない方は、途中の小屋で宿泊することを勧める。また、狭い山道では一般登山者とのすれ違いがある。未熟者の無謀な行動が、落石や滑落など、ほかの登山者の危険となる場合があるので、山の基本的なルールやマナーを厳守すべきである。さらに、夏山では天気が急変しやすい。天気予報をよくチェックしておき、いざという時に備えて、ツェルトや非常食など、最低限の装備を持って入山すべきである。また、もしものことを考えて、ひとりより複数人で行動したい。

 ところで、映画「劔岳点の記」は観ただろうか? 日露戦争直後の明治末期、日本地図完成のため唯一残っていた前人未踏の北アルプスの劔岳に挑んだ、陸地測量官の実話に基づいた物語。ルートを切り開いていった先達がいたからこそ私たちは山に入れるのだ。今年の夏は、多くの人に、山の厳しさ、優しさ、美しさに触れることのできる山岳ランを楽しんでほしいと思う。

静岡県 賤機山(しずはたやま)~鯨ケ池コース
望月将悟さんのトレーニングコースは、LatLongLab「猛レース」 で見ることができます。このコースを走ったことのある人は、自分のタイムを登録して、ネット上で望月さんとバーチャルランを楽しめます。実際に走ってみたら、ぜひ登録してみてください。

地図提供:LatLongLab

松本大

松本大/山岳ランナー・スカイランナー


1983年生まれ。2000m級の山々に囲まれた群馬県嬬恋村で育ち、幼いころから山で遊んでいた。小中学校ではクロスカントリースキー部、高校では山岳部に所属。山を楽しむための手段としてトレイルランを始め、数々の大会で頭角を現す。2008年は赤城山のロング、志賀野反15km、おんたけスカイレースで優勝。2009年は赤城山で2連覇を達成。夢はエベレストなどの8000m峰を最短時間で登ること。現在、群馬県・東吾妻町立原町小学校の教師で2年生の担任。

次回のナビゲーター:松永紘明さん
ハセツネなどの耐久系レースで常に上位に食い込んでいる、この夏、ツールドモンブランに参戦予定の松永紘明さんです。松本大さんからのご紹介です。

バックナンバー