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RUNNET TRAIL コラム

山岳警備隊員のモットーは「気分良く走れたか」

望月 将吾 さん
第8回
OSJ新城トレイルレース(2009年・32km)優勝

望月 将吾 さん

出発点は国体の山岳縦走競技

 望月さんのルーツは、生まれ育った静岡市井川地区(現・静岡市葵区)に連なる山々にある。その大半は、聖岳、赤石岳、荒川岳、塩見岳、間ノ岳、農鳥岳といった3000m以上の山が続く南アルプスをはじめとする山地だ。学生時代からそれらの山に親しみ、卒業して静岡市消防局入局後も、休日には山へ入って研鑽を積んだ。また、10数kgの荷を背負い、約800mの高低差を駆け上ってタイムを競う国体の山岳縦走競技にも出場。鏑木毅、松本大、奥宮俊祐、武田直樹選手らも当時国体に出場しており、望月さんと激しく競り合ったという。
 望月さんがトレイルランレースに出るようになったのは、23歳の頃だ。北丹沢12時間山岳耐久レースを手はじめに、青梅高水山、みたけ山岳、ハセツネなどに出場。当時の成績はいまひとつだったが、だからといって自分を追い込んでトレーニングすることはなかった。あまり深くは考えず、練習がてらトレイルレースやロードのハーフマラソンに出場していた。
 それでも、04年の北丹沢では準優勝に輝き、06年には優勝。その他のレースでも実績を積み始めてその名が知られるようになり、遂に今年になってからは冒頭のとおり2連勝を果たした。
「僕のトレーニングは、基本的に気の向くままに走ることですよ」
 本人はサラリと言うが、消防士だけでなく、山岳警備隊員も兼任する多忙な仕事に就いているだけに、トレーニングは少ない時間をうまくやりくりした内容だった。

 2009年3月に行われたOSJ新城トレイルを3時間38分29秒で制した。2010年大会も制し、2連覇。

2009年3月に行われたOSJ新城トレイルを3時間38分29秒で制した。2010年大会も制し、2連覇。

「気持ち良く走れたか」が大切

 望月さんは通常の勤務日は24時間消防署に詰め、明けの日が非番となる。休日は基本的に週2日。勤務時間が長く、予期せぬ災害なども発生するため、トレーニング時間の捻出はそう簡単ではない。
「ベースのトレーニングは自宅から消防署までのロードの往復通勤ラン。朝5時30分頃に家を出発して、キロ5~6分のゆっくりしたペースで出勤しています。帰宅時は夜勤明けなので当然眠いのですが、仮眠してしまうと集中力が途切れるので、終業後はそのまま走って帰ります。開店したての飲食店やカーディーラーの新車展示の情報などを聞いたときは、下見がてら遠回りしてチェックしてから帰ることもありますよ(笑)」
 さらに、時間に余裕があれば低山でのトレイル練習も加える。よく走るコースは自宅からほど近い賤機山(しずはたやま、標高約180m)や日本平(にほんだいら、標高約290m)など。キロ何分などと細かいタイムは取らず、自分が気持ち良く走れたかどうかの感覚を重視しているという。
「気分良く走れたら、その次は少し時間を縮めてみるか、みたいな。気負わず焦らず、結構アバウトに流すことが多いですね」

2009年のハセツネは7時間47分56秒で4位。

2009年のハセツネは7時間47分56秒で4位。

ロードへの好影響を実感

 アバウトとは言うが、年間のトレーニングスケジュールはほぼ決めている。11月から3月までは通勤ランやハーフ、フルマラソンなどのロード系ランを中心にして、4月から10月まではトレイル系ランにシフト。自宅近郊の低山をベースに、休日には南アルプス方面へ分け入る。5月は1000m級、6月は 2000m級、そして7月は3000m級の山と、雪解けを待ちながら徐々に標高を上げていくのが望月さんのやり方だ。また、6月には毎年の照準レースに位置づけている、7月の富士登山競走に向けて、五合目の富士宮口から山頂までの往復ランも加えている。トレイルランナー・山岳警備隊員として慣れ親しんでいる南アルプスと富士山というフィールドで、トレイルシーズンに向けて心肺機能を高めるのだ。
「こんな感じで、春から夏、秋にかけてのトレイルトレーニングメニューができ上がって以来、ロードにも好影響が出ていることを実感しています。辛いインターバル走をやらなくても、ここ数年ハーフマラソンのタイムは落ちていませんし、レース後半に疲れて失速することもほとんどなくなりました」
 トレイルではロードと比べると距離は稼げないが、その代わり高低の移動があるためかなりの負荷はかかる。途中歩いたとしても長時間身体を動かし続けることで、ロードにも通じる持久力を養えるはずだと、望月さんはアドバイスする。

2008年のハセツネ。闇夜を疾走する。

2008年のハセツネ。闇夜を疾走する。

あえて試走しない戦い方

 2008年の記録を10分上回るタイムで優勝を飾った、3月29日のOSJ新城トレイルレース(32km)に向けては、例年のトレイル系トレーニングへのシフト時期を早めて対処した。前述の4月ではなく、2カ月前の1月から低山ランの回数を徐々に増やしたそうだ。その甲斐あって新城だけでなく、その2週間後、4月12日のOSJ奥久慈50Kでも連続優勝。タイムは唯一の6時間台で、2位を15分以上引き離す圧勝だった。
「これからは、今まで以上にトレイルのほうへ軸足を移していくつもりです。自然と勝負できるトレイルのほうが、自分には合っている気がします。だから、僕はあまりレースの試走をしません。あえて先が見えない状況のほうが、自分の内面が研ぎ澄まされるからです。鬱蒼とした樹木の下で、あるいは雲の上の稜線で、次はどんな道が待っているのか想像しながら走るのが、トレランの醍醐味ですからね。ただし、レースの組み立てや安全確保の面から言えば、本来は試走しておくべき。お勧めはしませんけど(笑)」

※『1冊まるごとトレイルランvol.4』(2009年5月22日)掲載のものをそのまま転載しています

 2009年4月に行われたOSJ奥久慈トレイル50Kを6時間57分14秒で制し、初代王者に輝いた。

2009年4月に行われたOSJ奥久慈トレイル50Kを6時間57分14秒で制し、初代王者に輝いた。

望月 将吾 さん

望月 将吾(もちづき・しょうご)


1977年生まれ。静岡市消防局で消防士・山岳警備隊員を兼務。子供の頃から家業の農業を手伝い、野山に親しむ。高校卒業後に入った消防局で山岳競技に出会い、国体に出場。2006年北丹沢12時間山岳耐久レース優勝。2009年はOSJ新城トレイルレース、OSJ奥久慈トレイルレースなどを制し、OSJトレイルレースシリーズの年間王者に輝く。フルマラソンでも2時間35分の記録を持つ。
取材・文/保倉勝巳
写真/播本明彦、藤巻翔、小野口健太、本誌編集部
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